TITLE:仮説検定の考え方 *仮説検定の考え方 [#r04c0b10] 仮説検定の考え方について、簡単な例を用いて考えてみましょう。 **コインを投げて表が出た回数を数える [#m0624b13] 例として、コインを10回投げて、表が出た回数を数えることを考えてみましょう。 ゆがみがない、いわゆる「かたよりのない」コインであれば、 コインを1回投げた結果、表が出る確率も裏が出る確率も、 ちょうど半分の &mimetex(\normalsize \frac{1}{2} = 0.5 ); と考えて問題ないでしょう。 つまり、10回投げた結果として表が出る回数は5回ぐらいが最も多いと考えられます。 そこで、「''あるコイン''」を10回投げたところ、 表が9回も出たとします。 この「あるコイン」は「かたよりがない」コインでしょうか? それとも「かたよりがある」コインでしょうか? **「コインにはかたよりがない」という仮説を立てる [#ddcc415b] ''仮説検定''では、母集団に対するある''仮説''を立てます。 そして、母集団から取り出した一部分、つまり標本を使って、 その結果が偶然のものなのか必然なのかを確率的に調べて、 仮説が正しいかどうかを判断する方法です。 今、「コインを10回投げたうち9回表がでた」ことについて考えています。 コインにかたよりがある可能性がありそうです。 そのことを仮説検定で確かめてみましょう。 仮説検定では、どちらかというと主張したいことに反対の仮説をまず考えます。 これが、「母集団に対するある仮説」になります。 この仮説を「無に帰することを予定した」という意味で、 「''帰無仮説''」といいます。 そして、帰無仮説に対立する仮説、つまり、 どちらかといえば主張したい仮説を「''対立仮説''」といいます。 もしコインにかたよりがあるとしても、どの程度かたよっているかまではわかりません。 そこで、帰無仮説として「''コインにかたよりはない''」という仮説を立てることにします。 まとめると、帰無仮説と対立仮説は次のようになります。 -帰無仮説 : 「コインにはかたよりが''ない''」 -対立仮説 : 「コインにはかたよりが''ある''」 **コインの表が出る回数の確率を求める [#h215d703] 次に、帰無仮説として立てた仮説のもとでの確率を求めて、 その確率をもとに、 今考えている事象(コインを10回投げたら9回表が出た)が偶然起こったことか 必然的に起こったことかを判断してみましょう。 コインのように表または裏の2種類の結果を考えるには、 第9回で学習した、[[二項分布>../../9th/Binomial_Distribution]]の考え方を利用します。 二項分布は、ある独立な試行について事象 &mimetex(\normalsize A ); が起こる確率を &mimetex(\normalsize p ); 、起こらない確率を &mimetex(\normalsize q (= 1-p) ); とすると、この試行を独立に n 回繰り返したときに、事象 &mimetex(\normalsize A ); が起こる回数を確率変数 &mimetex(\normalsize X ); としたとき、 &mimetex(\normalsize X = x ); (つまり x 回起こる)となる確率は次のようになります。 #mimetex(){{ \begin{eqnarray} \mathrm{P}( X=x ) &=& {_n} C_x p^x q^{n-x} \\[10] &=& \frac{n!}{x! (n-x)!} p^x q^{n-x} \\[10] &=& \frac{n!}{x! (n-x)!} p^x (1-p)^{n-x} \end{eqnarray} }} 今回は、10回のうち表がでる回数を確率変数 &mimetex(\normalsize X ); として考えます。 表が出る確率も表が出ない(裏が出る)確率も同じで &mimetex(\normalsize p = q = \frac{1}{2}); となりますから、表が x 回でる確率は次のようになります。 #mimetex(){{ \begin{eqnarray} \mathrm{P}( X=x ) &=& { _{10} } C_x \left(\frac{1}{2}\right)^x \left(\frac{1}{2}\right)^{10-x} \\[10] &=& {_{10} } C_x \left(\frac{1}{2}\right)^{10} \\[10] &=& \frac{ {_{10} } C_x }{1024} \end{eqnarray} }} この式を計算した結果をまとめると、次のようになります。 |CENTER:|CENTER:|CENTER:|CENTER:|CENTER:|CENTER:|CENTER:|CENTER:|CENTER:|CENTER:|CENTER:|CENTER:|c |~ &mimetex(\normalsize X ); |0|1|2|3|4|5|6|7|8|9|10| |~確率|0.001|0.010|0.044|0.117|0.205|0.246|0.205|0.117|0.044|0.010|0.001| **仮説から求めた確率をもとに判断でする [#jf2812b4] 今考えている仮説は「コインはかたよりがない」です。 では、10回中9回表が出るコインにかたよりがないのかあるのかを判断するには、 どうすればよいでしょう。 ここで、「コインにかたよりがないという仮説のもとで、 まれなこと(ある一定の確率以下の出来事)が起きた場合は、 そのコインはかたよりがないとは見なせない」としましょう。 これが仮説検定では重要な考え方です。 この「まれなこと」が起きたと判断する基準を、 ''有意水準''(または危険率)といいます。 有意水準はあらかじめ決めておきます。 一般には5%(0.05)か1%(0.01)が使われます。 今回は有意水準を5%としておきましょう。 表が9回はでる確率は、「表が9回でた」場合と「表が10回でた」場合の確率を足し合わせたものになります。少なくとも9回は出た、と考えます。 確率分布の表から、表が9回は出る確率は、0.010+0.001=0.011となります。 有意水準を5%(0.05)と考えると、それより小さい確率です。 ''有意水準より小さい確率で起きてしまったこと''を、 仮説検定では「''仮説では起こるはずのないことが起こった''」と見なします。 このことを「''帰無仮説を棄却する''」といいます。 もし、有意水準より大きい確率だった場合は、 「仮説で起こるはずのないことが起こらなかった」とみなして、 「帰無仮説を棄却できなかった」といいます。 今回の場合、表が9回でるのはめったに起こらないことが起こったので、 帰無仮説を棄却し、「''コインにはかたよりがある''」という判断になります。 ちなみに、表が8回でたコインが別にあったとしましょう。 そのコインにかたよりがあるかどうかを考えると、 8回以上表が出る確率は、確率分布から求めると、 0.044+0.010+0.001=0.055となり、有意水準5%を超えることになります。 つまり「コインにかたよりがない''とはいえない''」という判断になります。 |