仮説検定の考え方仮説検定の考え方について、簡単な例を用いて考えてみましょう。 コインを投げて表が出た回数を数える例として、コインを10回投げて、表が出た回数を数えることを考えてみましょう。 ゆがみがない、いわゆる「かたよりのない」コインであれば、 コインを1回投げた結果、表が出る確率も裏が出る確率も、 ちょうど半分の と考えて問題ないでしょう。 つまり、10回投げた結果として表が出る回数は5回ぐらいが最も多いと考えられます。 そこで、「あるコイン」を10回投げたところ、 表が9回も出たとします。 この「あるコイン」は「かたよりがない」コインでしょうか? それとも「かたよりがある」コインでしょうか? 「コインにはかたよりがない」という仮説を立てる仮説検定では、母集団に対するある仮説を立てます。 そして、母集団から取り出した一部分、つまり標本を使って、 その結果が偶然のものなのか必然なのかを確率的に調べて、 仮説が正しいかどうかを判断する方法です。 今、「コインを10回投げたうち9回表がでた」ことについて考えています。 コインにかたよりがある可能性がありそうです。 そのことを仮説検定で確かめてみましょう。 仮説検定では、どちらかというと主張したいことに反対の仮説をまず考えます。 これが、「母集団に対するある仮説」になります。 この仮説を「無に帰することを予定した」という意味で、 「帰無仮説」といいます。 そして、帰無仮説に対立する仮説、つまり、 どちらかといえば主張したい仮説を「対立仮説」といいます。 もしコインにかたよりがあるとしても、どの程度かたよっているかまではわかりません。 そこで、帰無仮説として「コインにかたよりはない」という仮説を立てることにします。 まとめると、帰無仮説と対立仮説は次のようになります。
コインの表が出る回数の確率を求める次に、帰無仮説として立てた仮説のもとでの確率を求めて、 その確率をもとに、 今考えている事象(コインを10回投げたら9回表が出た)が偶然起こったことか 必然的に起こったことかを判断してみましょう。 コインのように表または裏の2種類の結果を考えるには、 第9回で学習した、二項分布の考え方を利用します。 二項分布は、ある独立な試行について事象 が起こる確率を 、起こらない確率を とすると、この試行を独立に n 回繰り返したときに、事象 が起こる回数を確率変数 としたとき、 (つまり x 回起こる)となる確率は次のようになります。 今回は、10回のうち表がでる回数を確率変数 として考えます。 表が出る確率も表が出ない(裏が出る)確率も同じで となりますから、表が x 回でる確率は次のようになります。 この式を計算した結果をまとめると、次のようになります。
仮説から求めた確率をもとに判断でする今考えている仮説は「コインはかたよりがない」です。 では、10回中9回表が出るコインにかたよりがないのかあるのかを判断するには、 どうすればよいでしょう。 ここで、「コインにかたよりがないという仮説のもとで、 まれなこと(ある一定の確率以下の出来事)が起きた場合は、 そのコインはかたよりがないとは見なせない」としましょう。 これが仮説検定では重要な考え方です。 この「まれなこと」が起きたと判断する基準を、 有意水準(または危険率)といいます。 有意水準はあらかじめ決めておきます。 一般には5%(0.05)か1%(0.01)が使われます。 今回は有意水準を5%としておきましょう。 表が9回はでる確率は、「表が9回でた」場合と「表が10回でた」場合の確率を足し合わせたものになります。少なくとも9回は出た、と考えます。 確率分布の表から、表が9回は出る確率は、0.010+0.001=0.011となります。 有意水準を5%(0.05)と考えると、それより小さい確率です。 有意水準より小さい確率で起きてしまったことを、 仮説検定では「仮説では起こるはずのないことが起こった」と見なします。 このことを「帰無仮説を棄却する」といいます。 もし、有意水準より大きい確率だった場合は、 「仮説で起こるはずのないことが起こらなかった」とみなして、 「帰無仮説を棄却できなかった」といいます。 今回の場合、表が9回でるのはめったに起こらないことが起こったので、 帰無仮説を棄却し、「コインにはかたよりがある」という判断になります。 ちなみに、表が8回でたコインが別にあったとしましょう。 そのコインにかたよりがあるかどうかを考えると、 8回以上表が出る確率は、確率分布から求めると、 0.044+0.010+0.001=0.055となり、有意水準5%を超えることになります。 つまり「コインにかたよりがないとはいえない」という判断になります。 |